僕は打ち上げ花火が好きだ。
クーラーの効いた部屋から見るのではない。遠くから見るのでもない。
夏の汗にまみれた人だかりをかきわけて、もっとかきわけて、打ち上げ場所の間近で見る。
空気の振動を体で感じる。
空気の振動を感じとる耳。
音と僕だけの世界。
ふと、誰かのことを思い出しても、花火の音が僕を「ここ」に引き戻す。
恋人と見に行けば、打ち上げ花火の振動を感じ取ったお互いが、2人揃って
「ここ」にいることを喜び合う。仲間と見に行けば、仲間同士「ここ」にい
ることを喜び合う。1人で見に行けば、僕が確かに「ここ」にいることを喜ぶ
んだ。